(電話はデンワ: 電子の速さ)
「半導体の中を進む電子の速度は、いったいどのくらいだと思いますか?」
中学の先生が、技術家庭科の授業中に僕たち中学2年生に説明してくれたのを、今でもよく覚えています。 (きっと、光の速度にちがいない。) ぼくは、心の中でそう思いました。 ところが、ぼくの予想に反して、
「電子は、カメが歩くぐらいの速さでしか進みません。」
との説明。 (まさか。) そう思ったのは、ぼく以外にもいたでしょう。 あなたもそう、思うのではないでしょうか? もし、電子がカメの歩く速さでしか移動しなければ国際電話は? 受話器から話したこちらの声を、カメの歩く速さで外国まで伝えていたとしたら……。 どこか、狐につままれた気がしていた僕たちの前で先生は、
「 半導体の中には、電子がいっぱいつまっています。 こちらから信号を送ると、電子がいっぱいつまったホースの中に水を少し足したことに似た事が起きます。 水をホースに圧力をかけて送り込めば、反対側の口が空いているときには、水が出てきます。 ホースの中を流れる水一つ一つは歩く速さくらいでも、長いホースを伝って出てくる水は、”素早く”出てきます。 あたかも、水道から入った水が出口から最初に出てきたかの錯覚を感じます。 半導体の中の電子も、これに似ているのです。 」
なんて不思議なことなんだ。 そして、なんと先生は、物知りなんだろうと、心底思いました。