方程式を使わない楕円・双曲線の説明

1.     楕円

楕円とは、円を押しつぶしたような下図のような形である。日常生活の中でも、

@    長ねぎ等の根菜や、竹をななめに切った時の切り口、

A           コップに入った水を少し傾けた時の水面、

B           ボールが太陽光やスポットライトで照らされた時の影、

C                     懐中電灯で地面を照らした時の明るい部分

D                     平面上の円を斜め方向から眺めた時

といろんな場面で出会う身近な曲線である。それだけに紀元前の昔からよく調べられていて、いろいろな特徴づけがなされている。そのうち最も重要といってよいのが、焦点の存在である。すなわち楕円の内部には焦点と呼ばれる2つの点があり、それらから楕円の周上の点までの距離の和が一定になっているのである。そのことを例@の円柱の平面での切り口で示してみよう。

 

 

 

 

 


この円柱に内接する2つの球BBをこの平面の左右から入れて、平面に接するまで押し込むとそれぞれの球が下図のように切り口の内部にある点FFで接するとしてよい。

 

 

 

 

 

 

 


切り口上の勝手な点をPとし、球BBと円柱が接する円と点Pを通る母線との交点をPPとすれば、球外の一点から球に引いた2つの接線の長さは等しいので、線分PFPFの長さの和を考えると

PF+ PF= PP+ PP= PP=(球BBの接する2円の間隔で一定)

が示せる。

この性質を持つ図形が楕円と呼ばれる。

 定義 2定点(焦点= focusという)からの距離の和が一定値である点が描く図形を楕円という。もちろんその一定値は焦点の間隔より大きくなければならない。なお、2焦点を結ぶ線分を楕円と交わるまで延長した線分を長軸、長軸の垂直2等分線で楕円内にある線分を短軸という。

 

 

 

円柱を平面で切断した際の議論は円錐を平面で切った時に現れる切断面にも通用でき、例AからCもすべて上の楕円の定義を満たす事がわかる(ダンデリンの定理。円錐に内接する球で平面にも接するものを2つ考え、切り口上の点から平面との2接点までの距離が、切り口上の点から2球の内接している円までの距離に等しいことを使う。長軸の長さは2球の内接している2円の円錐内での間隔に等しい)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


楕円を定義に従って描くのは易しく、紐の両端を2焦点の位置に固定し、紐がピンと張るようにして鉛筆やチョークを動かせばよい。例えば地面に正確に描くには、焦点の上に円柱状の2本の杭を打ち、紐の両端にその杭が入るような輪を作り、紐を引っ掛けてピンと引っ張った時の点の位置を記録すればよい。黒板の上のような所でも、角材の両端に短い円柱を接着した下図のような道具を作れば、紐の輪を円柱に引っ掛けた状態で片手で角材を固定し、残る片手で紐をピンと張れば同様に楕円が描ける。

 

 

 


楕円の形は、長軸の長さと短軸の長さで決まるが、上の構成法からは2焦点の間隔と紐の長さで決まるともいえる。両者の関係は、下の楕円上の点が2焦点を結び延長してできる軸(長軸)上にある場合と,短軸上にある場合の,下図で示された2つの場合を考えると、次の(i)(ii)で表されることが良くわかる。

 

 

 

 


         長軸上にある場合          短軸上にある場合

(i) 長軸の長さ=紐の長さ (楕円は描き方から左右対称なので、長軸上の紐が2重の部分は紐の通ってない部分と長さが等しい。よって2重の部分は0重の部分に移植可能)

(ii) 焦点の1つ,中心,短軸の端点の3点は,斜辺が紐の長さの半分である直角三角形をなす

 なお、座標平面での楕円の標準形であるx2 /a2 + y2 /b2 =1では、長軸と短軸は、座標軸に重なっていてそれらの長さである2a2bのいずれかであり、2焦点の間隔には記号2cが使用されるので、性質(ii)を表す等式はa2 =b2 + c2 b2 =a2 + c2 のいずれかで表される。

 そして、2定点がなぜ焦点と呼ばれるかは、一つの焦点から出発した光が楕円で反射されるともう一つの焦点へと向うという次の性質によっている。

 定理 焦点FFを持つ楕円上の任意の点Pに対し、線分PFPFのそれぞれがPでの接線となす角は等しい。

 証明 焦点Fから点Pの方向へ、楕円の長軸の長さだけ離れた点をQとする。FQの垂直2等分線が点Pでの接線でもある事が次のように示せる。まず、

PF+ PF=(長軸の長さ)=FQ= PF+ PQ

なのでPF=PQであるから、FQの垂直2等分線は点P通る。そして、P以外のその上の任意の点Rに対しては、

RF+ RF= RF+ RQ > FQ=(長軸の長さ)

なのでRが楕円の定義を満たさず(外部にある)、FQの垂直2等分線は1Pでのみ楕円と共有点を持つからである。従ってFQでの垂直2等分線でもある点Pでの接線は、角QP F2等分し、線分PFPFのそれぞれと等しい角をなすことがわかる。

 

 

 

 

 

 

 

例Dの円を斜めから見た時に楕円に見える事は、斜円錐(平面内の円の中心の真上にない平面外の1点と円周上の各点を結んで出来る曲面)を斜めに切っても楕円が現れる事と対応するが、座標や方程式を使わないと説明が困難なのでここでは触れない。 

 

2.双曲線

双曲線は、直角双曲線といわれる反比例のグラフ(y = a/x  aは正の定数)を一つの例とする、次のような形の曲線である。ただし、見やすくするためグラフを45度時計回りに回転し、座標軸を破線で表した。

中心に対し点対称な2つの無限に伸びた曲線よりなり、中心から離れるほど2つの直線(x軸、y軸)に限りなく近づいて行く性質を持つ。その合同な2つの曲線のうちの片方だけでも双曲線という(漢字の意味からすると変であるが)。すると、楕円ほどではないが日常生活でも次のような場面で遭遇している。

@ (角柱状の)鉛筆の芯を削った時に現れる木の部分と塗装面との境界線                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             

A  カクテルグラス(円錐状のコップ)を約90度傾けて水に漬けたときの容器と水面との境界

B              懐中電灯をほぼ水平にし照らした時の地面の明るい部分の境界線

C              地面に垂直に建てられた塔の先端部分の、太陽による地面への影が1日になす曲線

@からBは、楕円と同様にいずれもが円錐を平面で切った時に現れる曲線である。Cも、塔の先端を通る太陽光線が作る曲面が、頂点を塔の先端とし、底円を天球面上の太陽の軌跡(天の北極の方向に垂直な円)とする双円錐の一部分である事からわかる。ここで、双円錐とは、普通の円錐の母線を頂点の上に延長させてできる下図のような図形である(単に円錐という人が数学では多いが区別した)。

 

 

 

 

 

 

 


 この双円錐を、上下の円錐と交わりかつ頂点を通らないような平面で、切断して生ずる曲線が双曲線である。例@のように平面が双円錐の中心軸に平行であればもちろん双曲線になるが、平面と中心軸のなす角が頂角の半分より小さければよい(大きいと片方の円錐としか交わらず楕円が現れる)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 双曲線でも楕円の場合と同様に、双円錐の上下の円錐にそれぞれ内接し平面にも接するような球を2つ考え、B1B2とし、それらの平面との接点をF1F2とする。切り口上の任意の点Pに対し、Pを通る母線とB1B2の接円との交点をP1P2とすると、

PFPF=PPPP= PP=(球BBの接円の双円錐内での間隔で一定)

が成り立つ(上図でもし点Pが上の方の切り口上にあるとPFPF= PPPPは負になるので絶対値記号が必要)

 それでこの特徴で双曲線を定義する。

定義 2定点F1F2(焦点= focusという)からの距離の差が一定値である点が描く図形を双曲線という。ただしその一定値は焦点の間隔未満でなければならない。というのは、3PF1F2を結んで3角形が生じるためには三角不等式より|PFPF|<F1F2 が必要だからである。なお、2焦点を結ぶ線分が双曲線と交わる2点を結んだ線分を主軸という。

 

 

 

 

 

 


楕円には長軸と短軸という形を決める2つの量があったのに、双曲線には一見主軸という一つの量しかない。以下、楕円の場合にならって双曲線を定義に従って黒板に作図する中で、漸近線という、主軸と共に形を決める重要な、中心を通る2直線があることを示そう。

まず、色付き紐と、半分の長さの所に目印(ねじりん棒という名のついたテープ状の針金が適する)を付けた長い白紐を用意し、両者を下図のように結び両端に指の入る程度の輪を作る。ただし色付き紐が図では太線になっている。

 

 

 

 

 


楕円の章で触れた道具等を用いて補助者に両端の輪を2焦点F1F2に固定してもらい、白紐の目印を持ちピンと張ると、目印を持つ手の位置を表す点P PFPF= (色付き紐の長さ) を満たす。ただし、遠い方の焦点をF近い方をFとした。Pを動かすために、チョークが入る小さなリングを用意し、目印で折れている白紐を目印からリングにくぐらせて2本を同じ分量ずつゆっくり引き出す。その際に、リングにチョークを入れてリングの位置Pを記録するようにすれば、P PFPF= (色付き紐の長さ) を満たしながら中心に近づき、線分F1F2上では結び目と点Fとの中点に来る。この結果双曲線の1/4が出来上がる。F1F2を入れ替え同様にすれば、1/2が出来て(i)同様、下図より次の等式(iii)を得る。

(iii) 色付き紐の長さ=主軸の長さ(双曲線は描き方から左右対称なので、主軸の延長線上で紐が余計な部分は主軸上の紐の通ってない部分と長さが等しい。よってそれらは移植可能)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


次に、漸近線や、楕円における(ii)に相当する直角三角形も、自然に作図される事を以下に記そう。

色付き紐と白紐の結び目をQとすると、Pの決め方からPQ = P F 3角形PQ Fは二等辺3角形であり、PQF=PFQ。白紐の長さを限りなく大きくして行くことを考えると、3角形PQFの等辺は平行な2本の半直線となる(太陽から来る光が平行光線とみなせるようなもの)。そこで白紐の長さが無限大の時の、PPQQとすると、PQFPFQは等しく、かつ平行線に関する性質よりたして180度でもあるので両者は直角であり,FQFも直角と分かる(Qの位置はF中心で色付き紐の長さを半径とする円へと引いた接線の接点であり、前記円とF1F2を直径とする円との交点として作図される)

 また、点Pは線分QFの垂直2等分線上にあるので、無限遠点Pは線分QFの垂直2等分線上にあるとしてよい事が分かり、QFの垂直2等分線 OMが漸近線(厳密には、点QQに近づくと、Pから直線OMまでの距離が0に近づくことを示す必要があるが、可能)であることも分かる。

従って楕円の場合の(ii)に対応して次の(iv)を得る。

(iv) Fと中心O、そしてF中心で色付き紐の長さを半径とする円へとFから引いた接線の中点

M(主軸を直径とする円とO Fを直径とする円との交点)は、O Fが斜辺の直角3角形をなす

なお、座標平面での楕円の標準形であるx2 /a2 y2 /b2 = ±1では、主軸は、x軸かy軸に重なっていてそれらの長さは2a2bのいずれかであり、2焦点の間隔に文字2cを使えば、3角形OF1 M3辺はa, b, c なので性質(iv)c2 = a2 + b2 で表され、OMの傾きがb/aである事から漸近線がy =±(b/a)xになる事もわかる。

 楕円の場合と同様に次の定理が成立し、一つの焦点から出た光は双曲線で反射されて、もう一つの焦点から出た光のように見える事も双曲線の焦点の重要な性質である。

 

 

 

 

 

 

 


定理 焦点FFを持つ楕円上の任意の点Pに対し、線分PFPFのそれぞれがPでの接線となす角は等しい。

証明 焦点Fから点Pの方向へ、双曲線の主軸の長さだけ離れた点をQとする。FQの垂直2等分線が点Pでの接線でもある事が次のように示せる。まず、

PF PF=(主軸の長さ)=FQ= PFPQ

なのでPF=PQであるから、FQの垂直2等分線は点P通る。そして、P以外のその上の任意の点Rに対しては、三角不等式より

RF RF=RF RQ < FQ=(主軸の長さ)

なのでRが双曲線の定義を満たさず(外部と呼ばれる中心を含む領域にある)、FQの垂直2等分線は1Pでのみ双曲線と共有点を持つからである。従ってFQでの垂直2等分線でもある点Pでの接線は、∠QP F2等分し、線分PFPFのそれぞれと等しい角をなすことがわかる。

 

3.おわりに

最後に言及したかったが、方程式を使わない、初等的な解説を目指す等の方針から触れなかった事を述べる。まずは、放物線である。双円錐を母線に平行に頂点を通らないように切ると楕円でも双曲線でもなく放物線が現れる。そして放物線には一つの焦点と準線があり、曲線上の点から焦点までの距離と準線までの距離が等しい事、無限遠から軸と平行に垂直に入射した光が放物線で反射されると焦点に集まる事などである。

次に楕円・双曲線・放物線の3者に共通する性質についてである。例えばこれらは、いずれも射影変換では互いに移りあい、射影幾何学の立場からは区別のつかない同じ曲線である。射影幾何学はグラフィックの基礎とも深い関わりを持つだけに興味深い。

そして、惑星や彗星等の天体や、燃料噴出時を除く人工衛星等の軌道が、太陽や地球を一つの焦点とする楕円・双曲線・放物線のうちのどれかになっていることである。物理の授業で引力による運動方程式の解曲線として得れる事を習得される事を願う。

 

参考文献

1, ヒルベルト、コーン=フォッセン(芹沢正三訳) 直観幾何学 みすず書房 1966

 2 G・ジェニングス(伊理正夫・伊理由美訳) 幾何学再入門 岩波書店 1996